国産100%なたね油の未来
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私のお店は特にキャッチフレーズ、キャッチコピーなどつけるつもりはないのですが、結果として「地産・国産・伝統製法を応援したい」と店頭に書いています。
地産・国産というのはこの間の動画でもお話ししていますが、これからの世の中を考えた時に自分の生活圏で食べるものが手に入れられるようにしないと安心できないということです。それは遡ると種や肥料、畜産物なら飼料についても海外依存度を下げていくことが必要だと思っているということです。残念ながらそこまで遡らなくても口に入る範囲での食料自給率が4割未満ということで、戦争して海上封鎖にあったらまた我々は飢えてしまうようです。
それから伝統製法。これはぼんやりとした言葉です。
なにをもって伝統製法なのか?何年経ったら伝統製法なの?と考えると、例えばこんな定義はどうでしょうか?「産業革命前の技術で再現できる製法」これでどうでしょうか?製造にあたって石炭・石油によるエネルギーが必須でないこと。石油を原料とするケミカルな物質に頼らずに作られていること。そしてできれば原料作物の品種改良に遺伝子操作技術が使われていないこと。このあたりが定義になるかと思います。
遺伝子組み換えについては残念ながら現在広範囲な食品で実用化されており、海外産のとうもろこし、だいず、なたねなど多くの食品原料に使われているものは原料用の加工品として使われる場合、表示義務がない場合が多いです。遺伝子組み換え食品を食べるとすぐに人体に何かが起こるとは限りませんが、問題なのはこうした遺伝子組み換え品種の供給元が世界的大企業であることです。
食品の世界でも世界規模での大企業による寡占化が進んでいます。20世紀末から10年くらいの間、パソコンの世界ではウインテル連合なんていって、全てがマイクロソフトとインテルの支配下に収まってしまいそうな勢いがありました。パソコンの世界では結果としてああいう寡占化のおかげで操作が共通化してソフトウェア、今はアプリと言ったほうが通りがよいのでしょうか、それも集中的に供給されるようになって使いかってが良くなったと思います。そんなパソコンの世界でもマイクロソフト支配をよしとせず、LinuxなどオープンソースによるOSが作られ続けています。食品原料についても情報が公開され、大企業の支配から独立した存在が必要だと思います。
そんなことを考えて、地産・国産・伝統製法を勝手に応援するお店を始めたわけです。残念ながら「支える」とは言えません。あまりにも微力だからです。醤油や味噌をせめて樽1本くらい注文して、原料はこう、味はこう、と言えるようになればもう少し大きなことも言えるんですけどね。だから今はご縁があったり、もともと交流のあった人からこの考え方を実現しているものを紹介しているのが私のお店です。
例えば、「国産100%なたね油」
なたね油というのは、スーパーでよく売られている「キャノーラ油」に近いものです。
なたねの国産自給率はほぼ0に近く、米澤製油さんでは青森と北海道中心です。寒冷地が多いですね。基本は秋蒔きのなたねだそうです。主な品種としてはキザキノナタネというナタネを使っています。キザキノナタネは1990年頃に開発された品種で、かなり時間が経っており、種の更新が望まれています。ナタネに限りませんが同じ品種を長年使用していると収穫量が減少したり病害虫への抵抗力が減ってきます。そこで、これからは新品種である「ペノカのしずく」という品種に切り替えを進めているそうです。
キザキノナタネは「シングルロー系統」といってエルシン酸やグルコシノレートという成分を含むそうです。これらの成分が一部の家畜にとって甲状腺肥大などを起こすという問題があって、家畜飼料には適さないそうです。グレコシノレートは人間が摂取する分には問題がない、というか逆に健康増進するはたらきもあるのですが、家畜飼料には使えない。もったいないことです。
しかし、現在では「ペノカのしずく」というダブルロー系統の新品種が開発されて、こちらがメインになれば家畜飼料にも使えるようになるそうです。人間の食べ物の食料自給率も低いのですが、家畜飼料となるとその自給率はさらに低い25%程度と言われています。この先、「ペノカのしずく」による栽培品種の更新が達成されれば自給率の低いなたねを国産で栽培し、溶剤を使わずに90%の油を絞ってヒトが食べ、10%の油分を残した搾りかすを家畜飼料使って家畜飼料の自給率向上に一役買うことになります。地味な活動ではありますが、こうした活動のひとつひとつが食糧安全保障(!)につながっていくのだと思います。